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2023.07.10

月夜の晩だぜ、ポンポコポン Vol.3 「コンスタレーション」

先日、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した、監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二作品「怪物」を鑑賞した。湖畔にある小学校を舞台に、親と子、先生と子どもたち、大人同士、子ども達同士の視点の違いで、登場人物の誰もが怪物に見えるという構成の妙に舌を巻いた。

久しぶりにすごい映画を見たなと思った。是枝監督の抑制の効いた映像美と坂元氏の入れ子構造のようなひねりのある緻密な脚本、そして遺作となった坂本龍一の音楽、その3つが見事な調和を見せて時間を忘れさせた。

詳しく書くとネタバレになるので、興味のある方はぜひ観に行ってほしい。

人間誰しもどこかに弱さ、醜さ、情けなさなんかを抱えているものである。ある一面を見れば、「こいつは何て変な奴なんだ」と思われることなんていくらもあるだろう。お互いに。でも、ある別の面を見れば、全然違った人間にも見えるだろう。

しかし、世の中には、ある一面だけをとらえてレッテルを貼り、徹底的に攻撃するような場面が、とくにSNSの中では多く見られる。最近は、その傾向がより強まっているようにも思う。嘆かわしいと苦言を呈したところで恐らくなくなりはしないんだろうな。

しかし、人を多面的に見て、その人を理解しようと努力することはできると思う。

以前、日本におけるユング心理学の泰斗、河合隼雄氏が京都大学を退官する最終講義でユングが提唱した「コンスタレーション」という見方を講義した(本になっている)。コンスタレーションとは星座のことで、ある星(ある出来事、ある一面)だけを見るのではなく、別の星も見、さらに別の星も見ながら、その星たちをつなげて、星座として見ることの大切さを説いていた。相手の心を星座として見る。人間理解として、なんと美しくロマンのある見方だろうか。

by竹原伸一郎